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東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)115号 判決

原告

二宮康明

被告

特許庁長官

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた判決

一  原告

1  特許庁が、同庁昭和59年審判第10201号事件について、昭和63年4月21日にした審決を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文同旨。

第二請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

原告は、名称を「模型飛行機の構造」とする考案(以下「本願考案」という。)につき、昭和56年2月9日実用新案登録出願をしたところ、昭和59年3月12日に拒絶査定を受けたので、同年5月23日、これに対し審判の請求をした。

特許庁は、同請求を同年審判第10201号事件として審理した上、昭和63年4月21日、「本件審判の請求は成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年5月11日、原告に送達された。

二  本願考案の要旨

キヤンバが付された左翼および右翼を上反角を付して組立てるための紙飛行機の部品において、一枚の平面状の紙から切り出され、断面がほぼV字形になるように折り曲げられ、その折り曲げられた線が上記キヤンバに習う円弧状に成形されたことを特徴とする紙飛行機の翼組立て部品。

三  本件審決の理由の要点

1  本願の出願の日及び本願考案の要旨は一、二項のとおりである。

2  これに対して、原拒絶査定の理由に引用された実公昭45―29289号実用新案出願公告公報(以下、「第一引用例」という。)には、「左右の翼挟持部が翼に上反角を付与する方向にそれぞれ傾斜してV字形をなすと共に、各翼挟持部が胴体の長手方向に中高の円弧状をした模型飛行機の翼取付具。」が記載されている。

また、主翼にキヤンバと上反角を付した組立式の紙飛行機や模型飛行機において主翼を左翼と右翼で構成することは、共に従来周知である。

そして、このような飛行機において、主翼の取付部に補強板ないし裏うちを添設すること及びその材料として紙を用いることも、本願出願前すでに周知のこと(例えば、誠文堂新光社発行「子供の科学」別冊「よく飛ぶ紙飛行機集、第二集」(昭和48年11月5日発行)の第三三頁、第三六頁、第三七頁、小型競技用機、だ円翼、T尾翼の競技用機(以下、「第二引用例」という。)、同社発行「子供の科学」別冊「よく飛ぶ紙飛行機集、第五集」(昭和54年8月20日発行)の第一〇頁、第一一頁、おもりのいらない小型競技用機(以下、「第三引用例」という。)参照。第二引用例及び第三引用例については、組立式の紙飛行機自体についても参照。)である。

3  本願考案の紙飛行機の翼組立て部品と第二引用例及び第三引用例に記載のような周知の補強板ないし裏うちとを対比すると、前記周知の補強板ないし裏うちは、その使用態様からみて、本願考案の翼組立て部品に相当するといえ、結局両者は、本願考案の翼組立て部品は、予め断面がほぼV字形になるように折り曲げられ、その折り曲げられた線が上記キヤンバに習う円弧状に成形されているのに対して、前記周知の補強板ないし裏うちは、予めV字形に折り曲げておく使用形態は見受けられるが(第二引用例の三三頁右欄下段図、三七頁左欄中段図参照。)予めV字形の折り曲げ線をキヤンバに習う円弧状に成形するか否かについては明かでない点で相違する以外、その余の点では一致する。

4  上記相違点について検討する。

(一) 前記第一引用例には、左右の翼挟持部が翼に上反角を付与する方向にそれぞれ傾斜してV字形をなすと共に、各翼挟持部が胴体の長手方向に中高の円弧状をした模型航空機の翼取付具が記載されている。

(二) この同じ技術分野に属する公知技術を、紙飛行機の翼組立て部品に適用して本願考案のように構成することは、その適用につき特に障害があるものとも、また格別の工夫を要するものとも認められない以上、当業技術者が必要に応じて適宜なし得ることと認められる。

(三) なお、折り曲げられた線をキヤンバに習う円弧状に成形するのに、指でしごいて成形することは、考案の構成とは認められないばかりか、そのようなことは紙細工において常用されていることである。

(四) そして、本願考案の効果をみても、これらのものから予測できる効果以上のものは認められない。

5  したがつて、本願考案は、前記引用例に記載のもの及び前記周知技術に基づき、当業技術者がその知見により、必要に応じてきわめて容易に考案をすることができたものと認められるから、実用新案法第三条第二項の規定により実用新案登録を受けることができない。

四  本件審決を取り消すべき事由

本件審決は、第一引用例記載のものと本願考案が同じ技術分野に属すると事実の認定を誤り(認定判断の誤り第1点)、本願考案の構成の特徴と特段の効果を看過誤認した(認定判断の誤り第2点)結果、進歩性の判断を誤つたものであるから、違法として取り消されなくてはならない。

なお、三 本件審決の理由の要点2、同3中第二引用例及び第三引用例に記載のような周知の補強板ないし裏うちの予めV字形の折り曲げ線をキヤンバに習う円弧状に成形するか否かについては明らかでない点で相違するとある部分以外の部分、同4(一)、及び、同4(三)中折り曲げられた線をキヤンバに習う円弧状に成形するのに、指でしごいて成形することは考案の構成とは認められないこと、は認める。本願考案の翼組立て部品と第二引用例及び第三引用例に記載のような周知の補強板ないし裏うちとの相違点のうち周知の補強板ないし裏うちの態様は、V字形の折り曲げ線をキヤンバに習う円弧状に成形するか否かについては明らかでないのではなく、キヤンバに習う円弧状に成形することは明らかに開示がないものである。

1  第一引用例記載のものと本願考案の技術分野の同一性についての事実誤認(認定判断の誤り第1点)

本件審決は、第一引用例記載の模型飛行機のプラスチツク製の翼取付具板が本願考案と同じ技術分野に属する公知技術であると認定するが、この認定は誤りである。

プラスチツクは本来立体的な成形が可能な材料であるのに対し、紙は本来平面的な材料であつて、その立体的な工作には限界がある。両者は同じ技術分野に属するとはいえない。

2  本願考案の構成の特徴と特段の効果の看過誤認(認定判断の誤り第2点)

(一) 飛行機の主翼にキヤンバをつけることにより機体に浮力が生じるのであるから、大きい浮力を得るためには、主翼の全幅にわたりキヤンバをつけることが望ましい。また、主翼に上反角をつけることにより左右安定性が向上する。したがつて、主翼全体にキヤンバ及び上反角を共に付けることが飛行性能の向上のために望ましい。これらのことは、実際の飛行機でも模型飛行機でも技術常識である。

しかし、従来は、第一引用例記載のプラスチツクのような本来立体的な成形が可能な材料を用いるのではなく、一枚の平面的な紙から切り出した部品を貼り合わせて作る紙模型飛行機(以下「紙飛行機」という。)では、主翼のつけ根から先端まで全幅にわたつて、キヤンバと上反角を共につけることはできなかつた。

即ち、主翼のつけ根で上反角を付け、かつ主翼全体にわたりキヤンバを付するとの技術思想は実際の飛行機においては本願出願の七〇年以上前から実施されており、竹ひこを曲げて形成する模型飛行機においても本願出願の四〇年前から適用されていた。一方、一枚の平面的な紙を切り抜いて貼り合わせる形式の紙飛行機の製作そのものは四〇年以上前から行われていたにもかかわらず、主翼のつけ根から上反角を付けかつ主翼全体にわたりキヤンバを付するという技術思想は、本願の出願まで紙飛行機に実施されなかつた。つまり、主翼のつけ根から上反角を付け主翼全体にわたりキヤンバを付すことにより飛行性能の向上が期待されることを知りながらも、当業技術者の間でも具体的で適切な工作構造が見出されず、本願考案の部品には思い到らなかつたのである。これは、紙飛行機に前記の技術思想を適用するについて障害があり、これを克服するには格別の工夫を要したからに相違なく、本願考案が画期的な考案であることを示すものである。

(二) 本願考案の部品は、プラスチツクを用いずに、かつ、紙を単に折り曲げて作るのではなく、紙の持つ展性を利用するものであり、紙を材料とするものとしては従来なかつた形状の構成である。

紙はそもそも平面的な材料であり、本願考案のように、馬の背のような立体形状に工作するのには特に障害があり、格別な工夫を要する。

被告は、紙を折つたり、圧縮・引張り等を伴うプレスにより紙の展性を利用して成形加工したりして、平面的な紙から立体的な形状ないし構造が得られることは、乙第一号証ないし乙第三号証にも記載されているように周知であり、しかもそのような紙加工によつて、本願考案の部品よりも複雑な形状ないし構造のものが作られていることを考えると、本願考案のような形状ないし構造が一枚の平面的な紙から得られることは、当業技術者がきわめて容易に想到できることといえる旨主張する。

しかし、乙第二号証のものは、あらかじめしわをつけた紙を材料とするものであり、しわをつけた紙は、本願考案の「一枚の平面状の紙を切り出して作る」には当らず、乙第二号証は一般の展性の少ない紙を材料として本願考案のような立体形状を作り出す技術が公知であることの証拠にはならない。乙第一号証、乙第三号証のものは、本願考案のような立体形状のものではなく、しかもプレス機械を用いた大がかりな操作が必要であり、本願考案が対象とするおもちやの紙飛行機の工作には適当な例ではなく、このような大がかりな操作を必要とすることは、本件審決のいう「適用についての障害」である。

なお、乙第五号証のものは、特殊な材料を用いて特殊な加工をするものであり、乙第六号証のものは、特殊な紙を用いるものであり、乙第七号証のものも特殊な厚手の紙を使用するもので、しかも、「製品の周囲に裂傷や皺が生じないように」との記載はあるものの、現実には周囲に皺が生じているもので、いずれも本願考案の進歩性を否定する証拠とはならない。

原告は、実用新案登録出願の対象となる考案は、形状であつてその製造方法ではないことを承知しているが、本願は、一枚の平面状の紙を切り出して作る立体形状の部品が実用新案登録請求の範囲の対象であり、その部品を工作する方法として、展性の少ない紙を指でしごいて工作し得ることを考案の詳細な説明の中で開示した。これまで誰も気付かずここに初めて開示されたこの工作方法が「格別の工夫」一つに当るものというべきである。そして、圧縮・引張りを行うためのプレスを必要としないところに本願考案の特徴がある。

かりに、右1の主張が認められず、第一引用例記載の模型飛行機のプラスチツク製の翼取付具板が本願考案と同じ技術分野に属する公知技術であるとしても、第一引用例に記載されたプラスチツクを材料とした翼取付具板から、紙を材料とした本件考案に想い到るには紙の展性を利用するとの技術的な着想が必要であつたことを考えると、本願考案の構成がきわめて容易に考案をすることができたとはいえない。

(三) 本願考案の部品により、紙飛行機の主翼の全幅にわたつてキヤンバを付し、しかも主翼のつけ根から上反角を与えることができるようになり、本件審決が周知例として引用する第二引用例及び第三引用例記載のものと対比して、紙飛行機の飛行性能が著しく向上する効果がある。

即ち、前記のとおり、従来の紙飛行機では、主翼のつけ根から先端まで全幅にわたつて、キヤンバと上反角を共につけることはできなかつたので、原告は、これをいくらかでも改善しようとする第一の方策として、主翼全体にキヤンバをつけておき、主翼の先端近傍で主翼を折り曲げて上反角をつける構造を考案した(第二引用例の三七頁右上図及びそれに続く「だ円翼・T尾翼の競技用機」の切り抜き頁の写真、甲第五号証の表紙の写真参照。)。そうすると、① 上反角をつけるための折り曲げ部分や主翼端部付近でキヤンバが実質的に消失し、それだけ浮力が小さくなつてしまう。② 上反角に対するモーメントアームは長くなるが、上反角をつけた部分の面積が小さいために上反角が必然的に大きくなり、折れ曲がり角度の大きい部分で干渉抵抗が大きくなる結果、飛行機に緩やかなブレーキ作用をもたらす、③ 飛行機が上昇中あるいは着陸の際など、迎え角の大きい状態で飛行する場合に、主翼の折り曲げ部分で気流が乱れ急に失速を起こして浮力を失う現象が生じ、墜落する可能性が大きくなる、④ 翼端の左右の上反角部分を正しくバランスさせる必要があるがその工作が難しくなる、などの点で不利になる。

さらに、原告は、改善の第二の方策として、主翼のつけ根ではキヤンバをつけずに上反角のみをつけ、主翼の先端近傍で主翼を丸めてキヤンバをつける構造を考案した(第二引用例の「小型競技用機」、第三引用例の「おもりのいらない小型競技用機」及び裏表紙の写真参照。)。そうすると、⑤ 主翼幅の大きい主翼のつけ根付近でキヤンバがつけられず、その分だけ浮力が小さくなり、飛行性能が劣ることになる。

これに対し、本願考案の部品を利用すれば、主翼の全幅にキヤンバを付けることができ、しかも主翼のつけ根で上反角を与えることができるから、浮力が大きくしかも安定性のよい紙飛行機の構造が実現できるという特段の効果がある。

(四) 第一引用例に開示されたプラスチツク製の部品はたしかに公知であるが、これを紙飛行機に利用すると、① 厚みがあつて空気抵抗が増大することは避けられず、② 紙に比べて重量があるから飛行性能を劣化させ、③ 特別の成形型を用いて製作することが必要であるから価格が高くなる、④ 飛行機の大きさにしたがつて各種のサイズを準備して販売することが必要になる、などの不都合がある。また、プラスチツク製の部品が必要とされるとなると、⑤ 切り抜き用紙を綴じた書籍の形態による販売は不能となり、⑥ 紙飛行機競技会における紙飛行機の国際的な定義である、おもり及びカタパルト用フツクを除いては、紙以外の材料を用いないということに反することになり、制作の興味が失われ、⑦ 接着剤として水溶性のものを使用できず、有機溶剤のもの又はエポキシ系のものなどが必要となり子供向きでなくなる、等の不利な点がある。

これに対して、本願考案の部品は、紙を用いて、軽量のものを、任意の大きさに、簡単に製作することができ、本願考案の部品を採用することにより、右①ないし⑦の不利な点を全て解消することができるという特段の効果がある。

(五) 本件審決は、右(一)(二)のような本願考案の構成の特徴を看過誤認し、第一引用例に開示された公知技術を、紙飛行機の翼組立て部品に適用して本願考案のように構成することは、その適用につき特に障害があるものとも、また格別の工夫を要するものとも認められない以上、当業技術者が必要に応じて適宜なし得ることと認められると判断を誤り、また、右(三)及び(四)のような本願考案の奏する特段の効果を看過誤認した結果、本願考案の効果をみても、第一引用例ないし第二引用例記載のものから予測できる効果以上のものは認められないと判断を誤つた。

第三請求の原因に対する被告の認否及び反論

一  請求の原因一ないし三の事実は認める。同四の主張中、後記認める部分以外は争う。本件審決の認定判断は正当であり、原告主張のような違法はない。

二1  認定判断の誤り第1点について

本願考案の翼組立て部品が用いられる紙飛行機も、第一引用例に記載の翼取付具が用いられるプラスチツク製等の模型飛行機も、共に模型飛行機の範ちゆうに入るものであるから、本願考案と第一引用例に記載のものは同一の分野に属するといえる。用いる材料の特性が違うからといつて、これらが模型飛行機の分野に属することに変わりはなく、両者の技術分野は同一であるとの審決の認定に誤りはない。

原告自身、材料として紙を用いたものもプラスチツクを用いたものも、同じ模型飛行機として認識していることは、本願の出願当初の明細書及び図面(乙第四号証)からもうかがうことができる。

2  認定判断の誤り第2点について

(一) 「飛行機の主翼にキヤンバをつけることにより機体に浮力が生じるのであるから、大きい浮力を得るためには、主翼の全幅にわたりキヤンバをつけることが理論上望ましく、また、主翼に上反角をつけることにより左右安定性が向上する。したがつて、主翼全体にキヤンバ及び上反角を共に付けることが飛行性能の向上のために理論上望ましい。これらのことは、実際の飛行機でも模型飛行機でも技術常識である。」こと及び「主翼のつけ根で上反角を付け、かつ主翼全体にわたりキヤンバを付するとの技術思想は実際の飛行機においては本願出願の七〇年以上前から実施されており、竹ひごを曲げて形成する模型飛行機においても本願出願の四〇年前から適用されていた。一方、一枚の平面的な紙を切り抜いて貼り合わせる形式の紙飛行機の製作そのものは四〇年以上前から行われていたにもかかわらず、主翼のつけ根から上反角を付けかつ主翼全体にわたりキヤンバを付すとの技術思想は、本願の出願まで紙飛行機に実施されなかつた。」ことは認める。

しかし、本願考案の翼組立て部品の形状ないし構造は、第一引用例に記載された、左右の翼挟持部がV字形をなすと共に、胴体の長手方向に中高の円弧状をした翼取付具にならつた程度のものであつて、形状ないし構造上に格別の工夫は認められない。第二引用例及び第三引用例に記載された、予めV字形に折り曲げておく使用形態の紙製の補強板ないし裏うちに、第一引用例記載の公知技術を適用して、翼のキヤンバに見合つた胴体の長手方向に中高の円弧状を形成するに当たり、中心部分である折り曲げ線の箇所から中高の円弧状とすることは、第一引用例のものも、翼を挟持する部分の全体が中高の円弧状となつていることから、当業技術者がきわめて容易になし得ることといえる。

また、紙を折つたり、圧縮・引張り等を伴うプレスにより紙の展性を利用して成形加工したりして、平面的な紙から立体的な形状ないし構造が得られることが一般周知の事柄であり(乙第一号証ないし乙第三号証及び第三引用例の一〇頁下段参照。)、しかもそのような紙加工によつて、本願考案の翼組立て部品よりも複雑な形状ないし構造のものが作られていることを考えると、本願考案のような形状ないし構造が一枚の平面的な紙から得られることは、当業技術者がきわめて容易に想到できることといえる。さらに、模型飛行機の分野においては、他の模型と同様に、実際の飛行機に見られる構造ないし技術を採り入れたり、一の模型飛行機における構造ないし技術を他の模型飛行機に採用したりすることは、ごく普通のこととして行われている(キヤンバや上反角を付することもその一例である。)以上、紙を材料としたものに、第一引用例に記載された公知技術を適用することに、特に困難性は認められない。

したがつて、本願考案は、紙飛行機において、翼組立て部品を用いて主翼のつけ根から先端まで全幅にわたりキヤンバと上反角を共に付けるに際し、その部品の形状ないし構造に特別の工夫を施したものではなく、また、本願考案の翼組立て部品は、通常の紙加工技術によつて得られる構成に過ぎないものであつて、本件審決において、同じ技術分野に属する公知技術(第一引用例)を、紙飛行機の翼組立て部品に適用して本願考案のように構成することは、その適用につき特に障害があるものとも、また格別の工夫を要するものとも認められない以上、当業技術者が必要に応じて適宜なし得ることと認められる、とした判断に誤りはない。

(二) 本願考案の部品により、紙飛行機の主翼の全幅にわたりキヤンバを付し、しかも主翼のつけねから上反角を与えることができるようになつたことは認める。

原告は、主翼全体にキヤンバを付けておき、主翼の先端で主翼を折り曲げて上反角を付ける構造のものと比べて、本願考案の部品を利用したものは、飛行性能(浮力及び安定性)及び工作の容易性において優れている旨を主張する。

しかし、本願考案の部品を利用したものにきわめて近い構造のものとして、紙飛行機の主翼のつけ根近くまでほぼ全幅にキヤンバを付すると共に、主翼のつけ根から上反角を与えるようにしたものが既に知られている(例えば、第三引用例の一一頁、小型競技用機N四一一、N四二四、N四一二参照。)以上、原告の主張は意味がない。なお、原告が、主翼のつけ根ではキヤンバをつけずに上反角のみをつけ、主翼の先端近傍で主翼を丸めてキヤンバをつける構造のものの例として挙げているもののうち、第三引用例の「おもりのいらない小型競技用機」は、このようなものの例としては不適切である。すなわち、これらのものは、そのキヤンバについての説明や、第三引用例の一一頁のキヤンバについての記載からみて、主翼のほぼ全幅にわたつてキヤンバをつけるようにしたもの、少なくとも主翼のほぼ全幅にわたつてキヤンバをつけられるものと解するのが相当である。

また、本願考案の部品を利用したものと、主翼のつけ根近くまでほぼ全幅にキヤンバを付すと共に、主翼の付け根から上反角を与えるようにしたものとを比べた場合、キヤンバが付される範囲に僅少な差はあるが、それによつて飛行性能(浮力)に顕著な違いが生じるものとは認められないばかりか、明細書の記載等を見ても、このようなものとの定量的、具体的比較もなく、本願考案の部品を利用したものが、飛行性能において特に優れていることを認めるに足りる証拠もない。

さらに、仮に、主翼の全幅にキヤンバを付けると共に、主翼のつけ根で上反角を与えると飛行性能が向上するとしても、そのようにすることは、第一引用例に記載されている如く同じ模型飛行機において従来公知であり、かかる効果は、公知のものがすでに有している効果であつて、本願考案に特有の効果ではなく、本願考案は同じ模型飛行機における技術を、紙飛行機に採用して、同様の技術的効果を期待したものに過ぎない。

本件審決が、本願考案の効果を見ても、これらのもの(周知及び公知のもの)から予測できる効果以上のものは認められない、とした判断に誤りはない。

(三) 本件審決は、本願考案の翼組立て部品に相当する部品を紙で作ることは、紙飛行機において周知であり、そのようなものに、引用例に記載された、左右の翼の挟持部を翼に上反角を付与する方向にそれぞれ傾斜してV字形にすると共に、各翼挟持部を胴体の長手方向に中高の円弧状にするという技術を適用することは、当業技術者が必要に応じて適宜なし得ることであると説示したものであり、第一引用例に記載のプラスチツク製の部品をそのまま紙飛行機に利用することの不利について云々する原告の主張は、当を得ないものである。

また、原告が挙げている①ないし⑦の不利な点は、翼を取付ける部品の材料として紙を用いる周知技術(第二引用例及び第三引用例参照。)においてすでに解消されており、このような不利な点を解消できるという効果は、本願考案に特有のものではない。

(四) 本願考案は、第一引用例に記載のもの及び第二引用例及び第三引用例に記載された周知技術に基づき、当業技術者がその知見により、必要に応じきわめて容易に考案をすることができたものであり、本件審決の認定判断に誤りはない。

第四証拠関係

本件記録中の書証目録記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

一  請求の原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで原告主張の審決取消事由について判断する。

1  本件審決の認定判断の誤り第1点について。

原本の存在及び成立について争いのない甲第二号証(本件考案の実用新案登録出願の明細書、以下「本願明細書」という。)によれば、本願考案は、模型飛行機において左右の主翼を組み立て、胴体に取付けるための部品に関するものであることが認められ(甲第二号証一頁一三行から一四行まで、同四頁一〇行から一七行まで)、成立に争いのない甲第三号証(第一引用例)によれば、第一引用例記載のものは、プロペラ飛行機、グライダーなどの模型飛行機の左右に分離した主翼の基部を挟持して組立て、胴体に取り付ける装置に関するものであることが認められる(甲第三号証一頁1欄一八行かから一九行まで、同二頁4欄三行から一九行まで)。

右認定の事実によれば、本願考案も第一引用例記載のものも、共に模型飛行機の主翼を組立て、胴体に取り付けるための部品という、同じ技術分野に属するものと認められる。

原告は、プラスチツクは本来立体的な成形が可能な材料であるのに対し、紙は本来平面的な材料であつて、その立体的な工作には限界があり、両者は同じ技術分野に属するとはいえない旨主張する。そして、前記甲第二号証によれば、本願考案は、一枚の平面状の紙から切り出され、成形された翼組立て部品であり、模型飛行機の中でも紙飛行機に関するものであることが認められる(甲第二号証一頁五行から一〇行まで、同四頁一九行から同五頁四行まで)のに対し、前記甲第三号証によれば、本件審決が第一引用例に記載されているとして認定した「左右の翼挟持部が翼に上反角を付与する方向にそれぞれ傾斜してV字形をなすと共に、各翼挟持部が胴体の長手方向に中高の円弧状をした模型飛行機の翼取付具。」は、甲第三号証の考案の詳細な説明の欄に記載された実施例であり、右実施例記載のものは、可撓性を有するプラスチツクなどからなる主翼取付装置であり(甲第三号証一頁1欄二六行から二八行まで)、少なくとも主翼は発泡スチロールなどの軽量で且つ強度的に弱い材質のものからなる模型飛行機(甲第三号証一頁1欄二二行から二五行まで)に関するものであることが認められる。

本願考案が関わる紙飛行機も、第一引用例記載のものが関わる模型飛行機も、主要な部品が軽量で弱い材料からなる模型飛行機という共通点を有し、本願考案も第一引用例記載のものも、その模型飛行機の一部品である主翼の組立て取付けのための装置にすぎず、しかも、その材料が、本願考案は一枚の紙、第一引用例記載のものは可撓性を有するプラスチツクなどといずれも模型飛行機の材料としてありふれたものであることからすれば、本願考案と第一引用例記載のものは、その材料の差異を考慮しても、同一の技術分野に属するものと解するのが相当である。

2  本件審決の認定判断の誤り第2点について。

(一)(1)  請求の原因三の本件審決の理由の要点2中の、主翼にキヤンバと上反角を付した組立式の紙飛行機や模型飛行機において主翼を左翼と右翼で構成することは、共に従来周知であること、

(2) 同2中の、このような飛行機において、主翼の取付部に補強板ないし裏うちを添設すること及びその材料として紙を用いることも、本願出願前すでに周知のこと(例えば、第二引用例及び第三引用例参照。)であること、

(3) 同3中の、第二引用例及び第三引用例に記載のような周知の補強板ないし裏うちは、その使用態様からみて、本願考案の翼組立て部品に相当するといえること、

(4) 同3中の、本願考案の紙飛行機の翼組立て部品と第二引用例及び第三引用例に記載のような周知の補強板ないし裏うちとを対比すると、本願考案の翼組立て部品は、予め断面がほぼV字形になるように折り曲げられ、その折り曲げられた線が上記キヤンバに習う円弧状に成形されているのに対して、前記周知の補強板ないし裏うちは、予めV字形に折り曲げておく使用形態は見受けられるが、予めV字形の折り曲げ線をキヤンバに習う円弧状に成形することは認められない点で相違する以外、その余の点では一致すること、

以上(1)ないし(4)の事実は原告の認めるところである。(原告は、本願考案の翼組立て部品と第二引用例及び第三引用例に記載のような周知の補強板ないし裏うちとの相違点のうち周知の補強板ないし裏うちの態様は、V字形の折り曲げ線をキヤンバに習う円弧状に成形するか否かについては明らかでないのではなく、キヤンバに習う円弧状に成形することは明らかに開示がないものであると主張しているが、キヤンバに習う円弧状に成形することは認められないという点では同じである。)

(二)  右相違点について検討するに、請求の原因三の本件審決の理由の要点4(一)の、第一引用例には、左右の翼挟持部が翼に上反角を付与する方向にそれぞれ傾斜してV字形をなすと共に、各翼挟持部が胴体の長手方向に中高の円弧状をした模型航空機の翼取付具が記載されていることも原告の認めるところである。

前記甲第三号証の図面によれば、右第一引用例記載の翼取付具の、各翼挟持部が胴体の長手方向に中高の円弧状をしているのは主翼のキヤンバに習つて成形されたものであることが認められる。

そして、「飛行機の主翼にキヤンバをつけることにより機体に浮力が生じるのであるから、大きい浮力を得るためには、主翼の全幅にわたりキヤンバをつけることが望ましい。また、主翼に上反角をつけることにより左右安定性が向上する。したがつて、主翼全体にキヤンバ及び上反角を共に付けることが飛行性能の向上のために望ましい。これらのことは、実際の飛行機でも模型飛行機でも技術常識である。」ことは当事者間に争いがない。

したがつて、前記1のとおり本願考案と同じ技術分野に属する第一引用例記載の、左右の翼挟持部が翼に上反角を付与する方向にそれぞれ傾斜してV字形をなすと共に、各翼挟持部が主翼のキヤンバに習つて胴体の長手方向に中高の円弧状をした模型航空機の翼取付具の形状、構造を、第二引用例及び第三引用例に記載のような周知の補強板ないし裏うち、即ち、翼組立て部品に適用して、本願考案の翼組立て部品のように構成することは、当業技術者が必要に応じて適宜なし得ることと認められる。

(三)(1)  原告は、「主翼のつけ根から上反角を付け主翼全体にわたりキヤンバを付すことにより飛行性能の向上が期待されることを知りながらも、当業技術者の間でも具体的で適切な工作構造が見出されず、本願考案の部品には思い到らなかつたのである。これは、紙飛行機に前記の技術思想を適用するについて障害があり、これを克服するには格別の工夫を要したからに相違なく、本願考案が画期的な考案であることを示すものである。」「紙はそもそも平面的な材料であり、本願考案のように、馬の背のような立体形状に工作するのには特に障害があり、格別な工夫を要する。」、「本願は、一枚の平面状の紙を切り出して作る立体形状の部品が実用新案登録請求の範囲の対象であり、その部品を工作する方法として、展性の少ない紙を指でしごいて工作し得ることを考案の詳細な説明の中で開示した。これまで誰も気付かずここに初めて開示されたこの工作方法が「格別の工夫」一つに当るものというべきである。そして、圧縮・引張りを行うためのプレスを必要としないところに本願考案の特徴がある。」及び「第一引用例に記載されたプラスチツクを材料とした翼取付具板から、紙を材料とした本件考案に想い到るには紙の展性を利用するとの技術的な着想が必要であつたことを考えると、本願考案の構成がきわめて容易に考案をすることができたとはいえない。」旨主張するので以下これについて検討する。

(2) 「主翼のつけ根で上反角を付け、かつ主翼全体にわたりキヤンバを付するとの技術思想は実際の飛行機においては本願出願の七〇年以上前から実施されており、竹ひごを曲げて形成する模型飛行機においても本願出願の四〇年前から適用されていた。一方、一枚の平面的な紙を切り抜いて貼り合わせる形式の紙飛行機の製作そのものは四〇年以上前から行われていたにもかかわらず、主翼のつけ根から上反角を付けかつ主翼全体にわたりキヤンバを付すとの技術思想は、本願の出願まで紙飛行機に実施されなかつた。」ことは当事者間に争いがない。

前記甲第二号証によれば、本願明細書の考案の詳細な説明の欄には、「一枚の平面状の紙からほぼ長方形の紙(第4図(a))が切り出され、図に破線を付して示す線を折り曲げて第4図(b)のように断面をV字形にする。さらに、この部品を指でしごいてその折り曲げられた線がキヤンバに習うように円弧状に成形して第4図(c)のようにする。これは紙に存在するわずかな展性を利用した工作であり、従来の紙飛行機の工作では知られていない工作方法である。」(甲第二号証三頁一二行から四頁一行まで)、及び、「本考案では、紙にあるわずかな展性を利用して従来の紙飛行機の工作方法では知られていなかつた三次元の曲線形状を作り出す方法により、キヤンバおよび上反角をともに付した左右の主翼を組み立てるための部品を、簡単にしかも紙を用いて軽量に製作することができる。」(甲第二号証四頁一九行から五頁四行まで)との記載があることが認められる。

右記載並びに本願考案の実用新案登録請求の範囲及び前記甲第二号証中の図面から認められる本願考案のものの形状によれば、平面的な一枚の紙から切り出された材料を、本願考案のもののように、紙にあるわずかな展性を利用して、V字形になるように折り曲げられた線がキヤンバに習うように円弧状に成形するのは、従来の紙飛行機の工作方法では困難とされていたもので、一枚の平面的な紙を切り抜いて貼り合わせる形式の紙飛行機の主翼のつけ根から上反角を付けかつ主翼全体にわたりキヤンバを付すとの技術思想が実施されなかつた理由もこの点にあつたものと推認することができる。

前記甲第二号証並びに成立について当事者間に争いのない甲第四号証、甲第五号証及び甲第一〇号証によれば、右にいう従来の紙飛行機の工作方法とは、紙を切る、折る、曲げる、接着する等の、人が手であるいはごくありふれた道具を使用して行う手工芸的な加工方法をいうものであることが認められる。

一方、原本の存在及び成立について当事者間に争いのない乙第五号証ないし乙第七号証によれば、一枚の平面的な紙から、単に紙を曲げるだけでは形成できない曲面等複雑な形態の紙匙、紙類製の容器、有底紙筒を製造するためのプレス機又はプレス機用の型についての発明、考案が、古く大正7年、昭和8年、昭和13年に公告されていることが認められ、プレス機等の機械を使用すれば、人が手であるいはごくありふれた道具を使用して行う手工芸的な加工方法では形成できないような立体的な形状を、一枚の平面的な紙から紙の展性を利用して形成できることは本願出願当時周知であつたものと認められる。

(3) 右認定の事実によれば、一枚の平面的な紙を切り抜いて貼り合わせる形式の紙飛行機の主翼のつけ根から上反角を付けかつ主翼全体にわたりキヤンバを付すとの技術思想が本願考案の出願まで実施されなかつたことをもつて、本願考案のものを手工芸的な加工方法で形成する方法、即ち、本願明細書に記載されているような本願考案のものの製造方法を想到するのに格別の工夫を要したことを示すものと解することはできても、本願考案の形状、構造を想到するについて格別の工夫を要したことの表れと解することはできない。

また、実用新案法は、物品の形状、構造又は組合わせを保護の対象とし、方法は実用新案登録の対象としていないのであり、その進歩性を検討するについても、物品の形状、構造又は組合わせを想到することの難易を検討すべきものであり、その製造方法の一つを想到することの困難性をもつて、物品の形状、構造又は組合わせの困難性とすることはできない。原告の、平面的な材料である紙から、本願考案のような立体形状に工作するのには格別な工夫を要するという主張、本願明細書に開示された工作方法が本願考案を想到するについての格別の工夫の一つにあたり、圧縮・引つ張りを行うためのプレスを必要としないところに本願考案の特徴があるとの主張は、いずれも、本願明細書に記載されているような本願考案のものの製造方法を想到するのに格別の工夫を要したことをもつて、本願考案の形状、構造を想到するについて格別の工夫を要したことを主張するものであり採用できない。

また、プレス機等の機械を使用すれば、人が手であるいはごくありふれた道具を使用して行う手工芸的な加工方法では形成できないような立体的な形状を、一枚の平面的な紙から紙の展性を利用して形成できることは本願出願当時周知であつたものと認められることは前記(2)のとおりであり、「本願考案に想到するには、紙の展性を利用するとの技術的な着想が必要であつたことを考えると、本願考案の構成がきわめて容易に考案をすることができたとはいえない。」との主張も認められない。

(四)  原告は、本願考案の部品により、紙飛行機の主翼の全幅にわたつてキヤンバを付し、しかも主翼のつけ根から上反角を与えることができるようになり、本件審決が周知例として引用する第二引用例及び第三引用例記載のものと対比して、紙飛行機の飛行性能が著しく向上する効果がある旨請求の原因四2(三)のように主張する。

そして、本願考案の部品により、紙飛行機の主翼の全幅にわたりキヤンバを付し、しかも、主翼のつけ根から上反角を与えることができるようになつたことは、当事者間に争いがない。

しかし、「飛行機の主翼にキヤンバをつけることにより機体に浮力が生じるのであるから、大きい浮力を得るためには、主翼の全幅にわたりキヤンバをつけることが望ましい。また、主翼に上反角をつけることにより左右安定性が向上する。したがつて、主翼全体にキヤンバ及び上反角を共に付けることが飛行性能の向上のために望ましい。これらのことは、実際の飛行機でも模型飛行機でも技術常識である。」ことは前記(二)のとおりであるから、原告が主張する効果は、本願考案の構成から当然予測できるものにすぎず、本願考案のように構成すること自体、当業技術者が必要に応じて適宜なし得ることである以上、原告主張の効果をもつて特段のものということはできない。

また、被告は、請求の原因四2(四)のとおり、第一引用例に開示されたプラスチツク製の部品を紙飛行機に利用した場合に比べて、本願考案の部品は特段の効果がある旨主張する。

しかし、前記甲第三号証によれば、第一引用例に開示されたプラスチツク製の部品は、角型棒状の胴体を有し、発泡スチロールのような弾性シート状物よりなる主翼を有する模型飛行機に関するものであることが認められ、このプラスチツク製の部品をそのまま紙飛行機に利用する場合と、本願考案の部品を紙飛行機に利用した場合との効果を比較することは無意味であり、しかも、前記のとおり、本件審決が周知例として引用する第二引用例及び第三引用例記載のものと対比して、本願考案の部品の効果は特段のものとはいえない以上、原告の右主張は失当である。

(五)  以上のとおりであるから、本件審決の、第一引用例に開示された公知技術を、紙飛行機の翼組立て部品に適用して本願考案のように構成することは、その適用につき特に障害があるものとも、また格別の工夫を要するものとも認められない以上、当業技術者が必要に応じて適宜なし得ることと認められるとの判断及び本願考案の効果をみても、第一引用例ないし第二引用例記載のものから予測できる効果以上のものは認められないとの判断は正当であり、原告主張の本願考案の構成の特徴の看過誤認、本願考案の奏する特段の効果の看過誤認は認められない。

三  よつて、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 元木伸 裁判官 西田美昭 裁判官 木下順太郎)

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